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店舗工事の『競争見積・相見積(入札)」の正しい進め方

店舗工事は開業の中でも最も予算を取られることになります。少しでも安くやりたいというのは誰でも共通の基準ですよね。「工事見積は必ず相見積をとりましょう!」という呼びかけは飛び交って入るものの、店舗立ち上げを散々身近で見てきた立場から言わせていただくと、あくまでもルールに則った正しいやり方を講じない限り、いくら複数業者に競争見積を仕掛けても、判断基準が統一されていない曖昧なレースになっていることがほとんどなのです。大事なお金を本当の意味で適正な価格で使う。先々、多額のお金を損しないために、競争見積の正しい進め方を知った上で臨みましょう。

単に複数の会社に工事見積を依頼しただけでは正確な競争は成立しない

美容室理容室の開業時の「店舗工事」はメインイベントです。

実際、開業に必要となる総額の中で最も多い額が工事費に使われることになります。

誰もが、この工事費を少しでも安く抑えたいという考えることでしょう。
これは店舗工事に限った話ではなく、大きな買い物の際は、複数の店(会社)から同時に見積りを取ってみて、最も安い額面を提示したところから購入することを検討するのはあたりまえのことかもしれません。

店舗工事においても、「相見積(入札)」、すなわち複数業者に競争を仕掛け、少しでも安い会社を探したいですよね。

しかし店舗工事に関しては、いくら複数業者に見積を取らせたとしても、開業者さん自身が正確な基準を持って臨まないと、真に安い会社かどうかの判断ができないのです。

 

世の中で、業界のほとんどが「店舗デザイン・設計・工事」同時に一括で丸ごと請け負う会社の方が圧倒的に多いのが現実です。

これら、一括請負会社に対し、複数社に見積依頼して、最安値の会社をピックアップしようとしても、

それは競争が成立していないということに気づくべきです。

実際のところ競争にならない以上、まるで意味のないレースなのです。

正しいく競争見積(入札)を理解する為の例え話

この店舗工事における競争見積(入札)よく相見積としていわれているものですが、

この競争自体をイメージしやすくするための例え話です。

 

中学でも高校でも…学生だった頃の『試験』を思い出してみてください。

 

例えば、

4人学生を集め、それぞれに答案用紙を渡し同時に試験をスタート、そして同時に終了したとします。

4人答案を集め、採点し、点数が高ければ優秀で、低ければ劣等生…

こんなシーンで考えてみましょう。

 

まず競争を公平にするために絶対に必要な条件は、

この4名が同じ答案用紙に向かっていたかどうかです。

もしも、4人それぞれが向かった答案用紙が、国語、算数、理科、社会と異なるものだったとしたら?

もちろん、これは競争ではありませんよね。

(画:二塚柊司)

さてさて、店舗工事を基準としてあらためて考えてみましょう。

「複数社に見積を取り、競争の上、きちんと安い会社を選んだぞ!」

実はこの殆どは、この同じ図面(答案用紙)を使って競争させていません。

それぞれの別々工事会社に依頼した見積。

開業者さんはどの会社にも同じ条件を伝えたつもりでも、

各業者の見解の違い、それぞれ異なる設計、材料、数量などなど

まず、何もかもが異なる条件の比較でしかないのです。

一般的な相見積は、まるで成立していない競争

例えば・・・

15坪(約50㎡)の店舗物件に対し、カット面3面、シャンプー2台、
店の雰囲気は、モダン和風のイメージで!
見積と設計図面よろしく!・・・大半がこんな感じの依頼しています。

そう、たったこれだけの情報で競争をかけたつもりになっているのです。

 

4つの会社から出た見積というのは、

それぞれの会社の解釈によるデザイン設計が作られ、それを実際の工事したら…という前提の見積(積算結果)なのです。

 

A社・・・大理石などを多く使った解釈のデザインによるモダン和風テイスト・・・1300万円の見積

B社・・・木質を多く使った解釈のデザインによるモダン和風テイスト・・・1000万円の見積

C社・・・漆喰壁など左官材料を多く使った解釈のデザインによるモダン和風テイスト・・・900万円の見積

D社・・・普通のペンキ塗りを多く使った解釈のデザインによるモダン和風テイスト・・・600万円の見積

さて、この結果を見て、D社が最も安い会社なのでしょうか?

4社はたしかに各々モダン和風を上手に表現したデザインを提案できていたとしても、

同時に提出された見積書の工事費用に関しては4社は一切基準が一致しておらず、

これではまるで競争が成立していないということになるのです。
前述した、4人の学生の試験のように、もし正確な競走結果を得たいのであれば、4人とも同じ「算数の答案用紙」があってはじめて正確な競争が成立するわけです。

この理屈は店舗に関しても同様であり、

最初に一つの詳細なデザイン設計図面を対象にしなければ競争でなければ意味がないのです。
同じ材料、同じ物量、同じ時期、同じ工事日数など、4社すべてを同条件にしなければ本当に安い会社は選出できません。

だからこそ、工事業者選出以前に、店舗デザイン設計(いわば答案用紙)を詳細に作り上げておかなければならないのです。

正確な競争には同一の設計図に対して複数社が積算するべき

しかし、冒頭で述べた通り、世の中のほとんどの会社は、店舗のデザイン設計のみを請負うような専門会社は非常に少なく、「デザイン〜工事」まで一括ですべて請負うスタイルの会社ばかりです。

だとすると、これら一括業者達を相手に仮に4社に色々と要望を伝えたとしても、4社それぞれが異なる「デザイン画と設計図」+「工事見積」を提案してくることになります。

4社から提出された見積の中で、最も安価な提案をした会社が本当に一番安いのか?

ここに疑問を持つべきなのです。

 

正確な競争を仕掛けたいのであれば、絶対条件として、先に詳細な「デザイン設計の図面」が完成されている必要があります。

すなわち、複数社共通で取り掛かってもらうべき「答案用紙=図面」ということです。

ということは、4社に見積を依頼する前に、店舗デザイン設計者と先行して「デザイン設計」を詳細まで吟味し、図面作成までしておかなければならないということなのです。

 

工事業者選びの前段階であらかじめ店舗デザイン設計者とデザイン設計を突き詰め、

店舗デザイン設計者と共に安い工事業者を選ぶ。

この順序が正しい競争見積(入札)のやり方なのです。

一括請負の会社ではなく、先に開業者側に店舗デザイン設計者が必要

何度もいいますが世のほとんどは一括業者ばかりです。

確かに、一括業者であっても店舗デザイン設計の担当者が、設計図の作成をしてくれるかも知れません。

ですが、仮に競争見積を前提としているなら、一括業者に在籍する「デザイン設計者」の起用も現実的ではなくなるのです。

 

そもそも、一括業者内部のデザイン設計者は、オーナーとなる開業者より、自社の工事に繋げる営業担当的な役目も併せ持った人物なのです。なるべく安くやりたい、予算内で収めたい、という開業者の要望よりも、自社の利益を少しでも上げたいという使命のほうが強いのです。

また、先に設計図を作ってもらうにしても、何らかの形でその一括業者とは契約関係を結ぶ必要が生じるはずなので、途中で別の会社に乗り換えるとか、改めて別会社に再見積を取らせるというようなことができなくなります。

 

したがって、シビアな状態をキープするためには、一括業者内のデザイン設計者ではなく、工事を請負わずデザイン設計だけを専門とする人物を先行で依頼し、その人物と共に詳細な設計図を完成させたうえで、初めて複数業者に見積を取らせることが得策なのです。

ちなみに、私の店舗デザイン設計における全ての経験のうち、9割はこの店舗デザイン設計のみを請負うスタイルの立ち位置を貫いてきました。初期の頃、1割ぐらいは、工事業者の内部で設計担当として在籍したこともあり、どちらも経験をしたわけです。

複数社から提出された見積の適性チェックは開業者には無理

そして、提出された見積書を開業者が見たところで、おそらく表紙の合計額しか判断できる要素が無いはずです。

多くの場合、表紙の額面が、高い!とか、もっと安くして!とか…

わかりました、今回特別に200万円値引きしましょう!

やった!ありがとう!

 

これで、手っ取り早く工事契約にコマが進められてしまうのです。

 

見積書の額面が本当に高いのか?安いのか?

これは、見積書の2ページ目以降の「内訳明細書」が重要なのです。

 

なぜ表紙の合計額になったのか?これを詳細に説明しているのがこの「内訳明細書」です。

ここには、それこそ1行ずつ、細かすぎるぐらいの項目が並んでいるはずです。

しかも、それらは数百行に及ぶほど大量です。

それら一つ一つを開業者が見ても、何がなんだかわからないはずなのです。

例えば、AEP塗装 2,000/㎡ × 150㎡ = 300,000円

という項目を読み解いたとしましょう。

 

開業者さんが本当に知りたいのは

AEPって何?

1㎡あたり2,000円って、高いの?安いの?

150㎡って、本当に正しいの?

 

これら、内訳明細書に記されている内容の是非は、プロでなければ読み解けないはずなのです。

(画:二塚柊司)

店舗デザイン設計者を自分の代理人として起用する

このように、競争見積に限らず、多額の取引を行う工事業者と、予算にシビアになりたい開業者が直接対峙するのは、ある意味非常に危ういことと言えるのです。

例えば、裁判を起こすような問題に直面した時、絶対に頼りにすべきは弁護士さんの存在です。

何もわからない自分の為に、代理人となり様々な道筋を示してくれる絶対に外せない存在のはずです。

 

こと、店舗工事に関しては、取り組み方として「店舗デザイン設計者」を自身の代理人として先に指名して、タッグを組むのです。

そして、その人物の専門知識を借りて、工事業者と対峙してもらうという考え方です。

 

先に雇った代理人は、開業者から命を請けているのですから、工事業者の見積に対しても厳しくチェックすることが役目となるのです。

もちろん目を光らせるのは見積の適性だけではありません。

必要以上に額をぼったくるような不正を見抜く役目

手抜き工事が無いように監視する役目

様々な追加予算となりうるトラブルを解決に導く役目

開業者の大切な予算を管理する役目

etc…

工事業者に在籍していた頃の経験がこたえ

私は、この業界に社会人デビューした20歳から22歳まで、最初に勤務したのは工事業者でした。文字通り見積を作ったり、図面を描いたり、営業的なこともやりました。当時の仕事は、なによりも会社の利益率を高くすることが一番の役目とされていました。そのためにも、眼の前のお客様がわからないように、見抜けない程度に材料代を上増ししたり、物量を増やしたりと。

若かった当時は、日々疑問に思いながらも、会社からの厳しい司令どおりに業務を全うしていました。まぁバブル絶頂期の頃ではありましたが、工事業者の中の実情は、少なからずこういう部分が今でもあるのは間違いありません。むしろ、仕事なのだから、これは決して悪であるわけでもありません。

特に、この会社で設計担当者となった時も、使命は変わらず、客の要望は第二、自分の会社の利益追求が第一というのは変わらずでした。

 

そんな経験からも、一括業者の設計担当者では、開業者のシビアな予算事情に付き合うには役不足だと思うわけです。

デザイン設計だけを請負う会社に転職以降、長年競争見積は標準に

やがて私は22歳〜29歳まで、店舗工事を請負わず「店舗デザイン設計」のみを請負う会社を2社渡り歩き、デザインと設計のみのフィールで長い間働きました。遂には29歳の時、現在のbhの前身会社として店舗デザイン設計会社で独立開業しました。

その会社を5年経営した時点で、現在の店舗デザイン設計者を引退しコンサルタントに転身したのですが、特に前社を設立した時から、ほぼ100%、必ず工事見積に関しては「競争見積」を徹底してきました。競争見積なしで計画を進めた案件は、ほんの数件にすぎないほどなのです。

 

数え切れないほどの場数から、競争見積の正しい進め方と有効性を確信してきたのです。

現在、飯島が携わるプロデュース下でも、この競争見積は、ほぼ標準で、必ず行っています。

同じ図面、同じ条件で厳重な審査基準を敷いて行っても、毎回1位と2位の見積額には必ず差がつきます。

僅差の時もあれば、200〜300万円の大差がつくことも珍しくないのです。

 

これほどの大差がついた時、もしも、開業者さんが飯島と出会わず、自身の判断だけで間違えた競争を進めたら、もしかしたら300万円多い額面を払うことになったのだろうなぁ…そう思ったものでした。

 

競争見積、一般的には「相見積」といわれ、その必要性こそ開業者は頭ではわかっているようですが、正確な、きちんとした結果を得たいのなら、それなりのルールが必要で、やり方がしっかりしていないと、ただ時間を無駄にするだけに終わってしまいます。

 

店舗の工事に関しては、300万円もの節約を左右するほどの多額の投資ですから、ぜひとも飯島のアドバイスを参考に、正しい競争見積を行うことに意識を向けてください。そしてもしも300万円程の節約ができるたとしたなら、その額は、他のこだわりの要素にまわしたり、手を付けず、将来の余剰金を増やす算段として有効利用してほしいと思います。

 

 

著者:飯島由敬

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