【美容室開業】出店後に残しておくべき運転資金
やっと念願の開業をしても、出店から1年以内で退店していく美容室や理容室は想像以上に多く存在します。
原因は様々ですが、実は、開業計画の段階において、開業総額の資金計画から「運転資金」をしっかり確保できなかった…残せなかった…これが原因で退店してしまったり、経営のスタート時点から大きく躓いて運営を軌道に乗せるのに大変苦労していしまったというケースが多いのです。多くの場合、事前段階で「運転資金」の正しい解釈を誤っていることも問題です。独立開業、出店の総額資金の中で最低でも確実に残しておくべき運転資金の安全な考え方、基準を理解しましょう。
店舗オープンの時点ですべての資金を使い果たしてスタートという事例が多い
念願の開業は実現したものの開業直後の時点ですでに全ての資金を使い果たしている開業者の事例をよく見かけます。
開業者さんのほとんどは、開業時、店舗工事や理美容機器の購入の他に、はたしてどれぐらいの予算がかかるのかを自身で事前に明確し把握することなく、勢いだけで計画を進めてしまいがちです。特に出店までのプロセスにおいて、店舗が完成するまでは本当に大変であり、神経を想像以上にすり減らすものです。
ましてや、自分が夢に描いていた店舗に対し、なかなか妥協することもできず、ついつい1ランク上のグレードを求めてお店を立ち上げていく傾向があります。このとき、店や機器類のことにばかり気を取られ、つい忘れがちなのが開業時に確実に残すべき運転資金です。
手探りのように進めた開業計画で、なんとか店舗こそ、まずまずのレベルで完成できたものの、実際の店舗オープンの時点でほとんどの資金を使い果たしてしまっている・・・
あるいは、計画途中の段階ですでに資金不足に陥り、さらなる資金調達をしなければならないほど切迫した状況に陥っている・・・
新たなお店が街に登場するわけで、一見外からはとても華やかで立派なお店に見えて、なんとなく前途洋々に見えるたりするのですが、当の出店者側の実情はかなりまずい状況で、開業はできたものの、どういうわけけか短期間で閉店。世の中の実態として、こんな危険な状態で経営をスタートさせている事例は意外と多いのです。
もちろん、開業者自身は、当然そんな状況にするつもりはなかったはずなのです。
おそらく、なんとなくでも、運転資金はしっかり残しておかなくては・・・と、頭では理解していたはずです。
しかし、あろうことか・・・
結果は、全然お金を残せなかった、すなわち運転資金を使い果たしてしまった。・・・これがとても多い失敗事例なのです。
運転資金とは開業段階で確実に残しておくべき『現金』のこと
ピカピカの店舗が完成したら、あとは経営を頑張るのみ!と開業した以上、誰もがそう思うでしょう。
しかし、そんな意気込みに反して、走り出しの大切な時期にうまく軌道に乗れなかったがために最悪な経営状況に陥った。
安全に軌道に乗れれば、確実にうまくいくような計画性だったにも関わらずです。
まず店舗とは、あくまでも今後、精力的にお金を稼ぐ為の「道具」にしか過ぎません。
理美容師さんの必需品、ハサミと同じような部類のものと考えましょう。店舗は巨大で持ち歩いたり、動かしたりできないものだけど、仕事のための道具の一つなのです。この店舗という見た目がとても素敵な道具・・・このやっと手に入れた店舗は、いわば、
ガソリンが空の状態で納車された新しい自動車と同じなのです。
これがどんなに高性能で、とてつもないほどのスピードが出る誰もが憧れるような車であっても、
肝心要のガソリンが入っていなければ、文字通り、車を1メートルも移動することすらできません。
独立開業して確かに店舗は完成した。しかし開業で全ての資金が尽きているという状態は、
ガソリンを買うお金を用意せずに新車だけ納車された状態と同じなのです。
店舗開業では、いかなることがあっても、このガソリン代すなわち運転資金を確実に残した状態で運営をスタートしなければなりません。
開業実現に必要となる開業総額の中から、一定額手をつけずに「現金」を残しておく必要があるということです。
開業から1年間すら運営を続けられず退店している事例が実は多い
理美容師さんに限らず、どんな業種の人でも独立開業は生まれて初めてであることがほとんどでしょう。
開業は、過去に経験したこと無いような未経験なプロセスの連続となります。
その後の運営に必要となる、あまりにも大量な物品を非常に短い期間で一気買いする必要もあるのです。
多くの人は、今まで使ったこと無いような百万円単位の多数の買物を連続して発注することに、大きな恐怖やストレスを感じながら進めることにビビってしまい、硬直するケースも非常に多いのです。とはいえ、この未経験なプロセスを踏まずして計画は先に進みませんから、この不安は乗り越え突破していかなければならないわけです。しかしこれに端を発し、困ったことに普段の金銭感覚が一気に吹っ飛びます。お金の基準が完全に麻痺してしまう危険な時期にもなります。
不動産取得で数十万円支払い、店舗工事や理美容機器で数百万円の支払い・・・そんなことを短期間で次々と続けていると、そのうち、誰でも普段の1万円の買物をするのに大いに悩むはずの感覚が消えてしまいます。
いつの間にか数十万円の決済を安易に連発してしまうような妙な感覚に支配されてしまうのです。
開業までは漕ぎ着けたものの、店舗オープンを迎えた段階で、なんと一文無し状態。
この最初の躓きが原因となり結果1年間も運営を続けられず退店する事例に繋がるのです。
美容師、理容師として抜群の才能を持っているにもかかわらず、なぜか開業後、僅か数ヶ月で退店する羽目になった・・・
このような最悪な出来事の原因は、決して理美容師としての才能、優劣さとは一切無関係なのです。
「山登りで例えれば、Tシャツ、短パン、サンダル履きという装備で登山に向かう。」
「航海で一切の遭難常備品を持たずに船を出す」
開業時、運転資金をゼロでスタートさせてしまう人は、まるでこんな行為に走った人である、という例え話を私は自身の著書でも散々語っていますが、まさにこれと同じ次元の話なのです。本当の原因は運転資金を残さなかったということ以前に、ただ「甘く見ていた」ということなのです。
開業後最低でも2~3ヶ月間の月経費が払える分の現金を残すこと!
独立開業は誰でも夢の実現となります。
しかし、せっかくの新車を購入しても、お金を使い果たしガソリンが全然買えない状態となってしまっては意味がありません。
とにかくエンジンを動かすための・・・この車に沢山働いてもらうための・・・ガソリン代をしっかり残しておくことが絶対条件です。
そのガソリン代たるものこそ、運転資金『現金』そのものなのです。
開業計画で最も悩ましいところは、限られた予算範囲内で、不動産契約、店舗工事の他、想像以上に大量な買物など・・・すべてひとつも漏れなく買い揃えて実現させる必要があります。相当なまでの緻密な予算バランスを追求しなければ実現しないのが開業なのです。
それほどまでに大量な出費の連続に、はじめての経験となる開業者は、気を抜くとすぐに予算不足に陥ってしまいます。
まずは、最低でもこの「ガソリン代を絶対に確保する!」「何が何でも現金は残しておかなければ!」という認識さえを強烈に持っていれば!結果は少なくとも最悪の事態からは免れるはずです。
そうでなくとも、まとまった資金を残すこと自体、とても難しいのが開業計画というものです。
では、その運転資金、はたしてどれぐらい残すべきなのでしょうか?
開業後2~3ヶ月間の月間の経費が払えるだけの現金を残す!
これだけでも、1年以内の退店を未然に防ぐことに繋がります。
「え?その程度の資金じゃ、足りなくないですか?」
そうですね・・・これだけだと、決して余裕があるものではありませんね。そりゃ、できれば、月間経費の半年分ぐらいは残しておけたほうが安心かもしれません。
しかし、特に、個人事業主として開業する理美容師さんは、まず小規模な開業計画となります。
軍資金となる資金調達額は、せいぜい1,500〜2,000万円が限界となる場合が多いのです。
そんな限られた開業予算の中から、仮に月経費の半年分を残すとなると、店舗工事費他、多くの買物の費用がとても足りなくなり、すべてのものが揃わなくなることもあるのです。あるいは、運転資金確保の優先順位を重視しすぎて、他を抑えに抑えた予算配分で実行したとしたら、その完成はとてもお粗末な店舗になってしまったり、安物物品ばかりを寄せ集めたチープな仕上がりになることもあり得ます。
できるだけ多くの運転資金を確保するという基準、これ、本当に悩ましいところではあるのです。
開業者さんそれぞれ事例によって、開業総額として使える資金の調達額は異なりますが、仮に調達限界が仮に2,000万円だとしても、全要素そこそこレベルで用意しつつ、さらに運転資金を潤沢に残すということが想像を絶するほどに難しいということが想像できますか?どうであれ、開業計画はとにかくシビアな予算バランスの追求が成功の鍵なのです。
できれば少しでも多く残しておきたい運転資金・・・しかしながら、なかなかそういうわけにもいかないのが運転資金・・・ほんとに、悩ましいんです。
どんな総額予算が乏しい開業計画であったとしても “最低でも” 2〜3ヶ月の経費 が払える分は、何が何でも残す!
これは運転資金確保の基準の絶対条件としておくべきです。
運転資金は初期の苦しい3ヶ月間で一旦全額無くなるものと想定しておく
開業のほとんどの事例において、店舗オープン直後2~3ヶ月の期間が最も辛く苦しい日々に直面します。
開業計画と同じく、まるで未経験の実際の経営というフィールド、まさしく経営者としての1年生ですから、辛くないわけがないんです。
直面することのほぼすべてがパニックや悩みの連続となるかもしれません。その新たな始まりのスタート直後、最初の半年間、いや、最初の3ヶ月間が本当に辛い。
実は、運転資金というのは、この最も苦しい2~3ヶ月で全額、一旦使いきって無くなることを前提にしておくべき資金と捉えましょう。
どの開業者さんでも、開業後は必死でこの苦しい2〜3ヶ月を乗り切るために、様々な創意工夫をしながら、間違いなくがんばります。
開業実例のほとんどは、3ヶ月を切り抜ければ、なんとか先々の光脈が見えはじめてくるものなのです。そしてさらに進み、半年時点を迎えるころには、なんとなく経営のリズムを掴み始めるものです。
ちなみに、日本政策金融公庫でも、銀行の融資でも「創業融資」となれば軌道に乗るまでは一定時間が全体に必要であるはず、という見解があり「返済の元金は据置期間を使って6ヶ月後からにしましょう」と推奨します。これは、要するに半年後までは返済などできないほど大変であることを十分に理解した貸す側から開業者への多大なる協力措置といえます。
融資機関ですら常識と捉えている「本番は半年後から」というこの基準。
独立開業においては、とにかくこの開業半年後の段階までになんとか運営を軌道に乗せることが重要なのです。
とにかく厳しい開業当初の半年間、さらに絞り込めば、もっと苦しい最初の3ヶ月間ですが、開業総額から辛うじて捻出した運転資金はこの3ヶ月で一旦消える前提のもの。
そして、軌道に乗り始めるであろう3ヶ月目以降、日々の売上の中から、さらに新たなる運転資金を捻出を始めるのです。常に余剰金を補充し続けるというサイクルを目指すという、こんな経営感覚もわかっておきましょう。
すなわち、開業後に日々捻出する運転資金と、開業前に残しておく運転資金、2つの運転資金を把握しておきましょう。
開業総額から捻出する2〜3ヶ月分の運転資金は、まず車を動かし行商する最低限のガソリン代というわけですね。
そして日々行商しながら稼いだ利益で、再び先々のためのガソリンを買い足すのです。
これが開業後の運営から捻出する運転資金です。すなわち運転資金とは、運営開始後も常に絶えることなく確保し続けるものであるということ。
新車が届き、その車で商品を運んで売る→利益で新たな商品仕入&ガソリン代にする→そしてまた運んで売る・・・
この絶え間ない繰り返しが商売のリズムなのです。
開業して手に入れる店とは、多額の投資をして購入した新車のようなもの
そして先々、その車に働いてもらい、常にガソリン代を捻出し続ける、これが先々の運転資金の考え方。
まとめ
- 運転資金は開業時に使い切らずに持っておかなければならない「現金」
- 開業時点で運転資金がゼロでは1年以内の退店もある
- 開業後2~3ヶ月の月間の経費が払えるだけの現金を最低でも残すこと
- 運転資金は開業初期の苦しい時期に一旦無くなることが前提
- 運営開始後も常に運転資金を確保し続ける
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