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一人美容室こそ、店舗デザインやおしゃれな内装にこだわるべき!でも、節約も必要!予算はどのくらい?開業事例から対策方法を解説!

「一人で美容室を開業する上で、どういったことに気を付けるべきですか?」といった相談を、bh飯島も過去に数多く受けてきました。
美容師の中には、「自分1人きりで運営する美容室を開業したい!」このような希望の方が多いようです。

ひとり美容室を作る上で大切なことの一つは「店舗のデザインや内装にある程度こだわる必要がある」ということ。
なぜ、「店舗デザインや内装にこだわる」必要があるのか?これは「他店との決定的な差別化をアピールする必要がある」ということです。

しかし、一人美容室で開業を目指すなら、開業にかかる費用を低く抑えていかなければならないという鉄則もあります。

この記事では、「一人で美容室を開業する上で、どういったことに気を付けるべきか」を解説していきますので、ご自身の開業の参考にしてくださいね。

なぜ、1人美容室で「店舗デザイン・内装」にこだわる必要性があるのか

ひとり美容室を作る上でこだわるべき「店舗デザイン・内装」。
では、なぜ、「店舗デザイン・内装」にこだわるべきなのでしょうか?

「一人美容室」とは、文字通り「たった一人きりですべてやりくりする美容室」です。このお店のセールスポイントは、まさしく開業者自身であり、「開業者自身の魅力に引き付けられるお客さん」しか来ないと考えられるのです。

しかし、ほとんどの場合、開業者に対し、「あなたの魅力は何ですか?」と訪ねても、誰もが自分のことは、なかなか客観視できないもの。実際この質問に対し、自分で明確に答えられるでしょうか?おそらく、これを明確に答えられる方は少ないでしょう。
しかし、ここは何としてでも、明確にしておきたいところなのです。

この「自分の魅力」が開業者自身でわかっていなければ、将来出会うたくさんのお客様たちが、「何を求めて自分の店に来てくれているのか?」がわからないということ。
と、いうことは「自分が、お客さんに対して提供すべきサービスの本質」が、理解できていないということに繋がるのです。
これは、一人美容室に限ったお話ではありません。複数の従業員を雇用して経営する中規模以上の美容室でも共通です。しかし、とりわけ、一人美容室は、中規模店舗以上に、この「開業者自身の魅力探求」が重要なポイントなのです。

単純に「髪が伸びたからカットしに来た」とか、「カラーが落ちたから、そろそろ染めに来た」とか、これらの目的で来るお客様というのは、ただ用を足すために来店しているといえます。これは、「ニーズ」を提供する店ということです。
しかし、本当にありがたいお客様というのは、他店より施術単価が高かろうが、自宅から遠いところに住んでいようが、わざわざ、足繁く、自分のところを選んで来るような客のはずです。
こうした常連客、お得意様というのは、多くの場合、「ニーズ」を果たすためではなく、「自分に会うために来ている」、そう、「わざわざ来ている」のです。明確な目的を持って自分に会いに来ているはずなのです。

そのため、一人美容室を運営していく上で、最も重要なポイントは、この「自分の魅力」なのです。

そんな開業者の魅力を最大限に引き立てる場、表現のための空間が「店舗」です。
すなわち、テレビドラマや映画でいうところの「セット」、演劇での「舞台装置」「舞台設定」が「店舗・内装」にあたるのです。
1人で運営する以上、お店の売りは「開業者自身の魅力」。
そのため、グループ運営する中規模店以上に、「自分の魅力を最大限引き出す舞台装置」=「店舗デザイン・内装」が重要なのです。

とはいえ、このセットとなりうる「店舗・内装」、当然、凝れば凝るほど、店舗工事費は高くなりますね。

そもそも、一人美容室で店舗を立ち上げるとなると、開業総額も中規模店舗の開業とは異なり、より予算の節約が必要となります。すなわち店舗の工事費に割り当てられる予算が、通常より少なくしなければならないわけです。この予算バランスが、本当に悩ましいところです。

小規模美容室では、なぜ予算の節約が必要となるのか?

一人美容室で開業していく場合、中規模店舗の開業より小予算で開業せざるを得ません。
なぜなら、従業員を含めて複数名で運営していく店舗と、一人美容室では、売上額が大きく異なるからです。

一人きりでの美容室運営の場合は、どんなに頑張っても月間売上を100万円以上あげることは至難の技です。超カリスマと呼ばれるほどにブランド力がある開業者なら話は別ですが、一般の美容師がお客様から頂ける客単価では、どうしても売上額が伸び悩むのです。
過去開業した方々の実例データでは、一人美容室での売上は、月間70〜80万円ぐらいが限界というラインがあります。もちろん、中には特殊な技術を持っていたり、様々な商才があったりする美容師で月間100万円以上の売上を上げる方もいますが、一般的な美容師で「一人運営で月間100万円以上売り上げる」事例は稀でしょう。

また、一人美容室での開業計画ともなれば、日本政策金融公庫や銀行の融資額も、中規模美容室より少なくなってしまうこともあるのです。「たった一人での運営」である以上、「それほど大きな売上をあげられるわけがない」と判断されてしまうからです。
融資機関の判断基準は、「多く売り上げられそうな店だからこそ、高額な融資をしても大丈夫だろう」というシンプルな基準です。
「一人運営では、月間100万円以上の売上は無理!しかし、仮に、新卒未経験のアシスタントが一人でも雇用予定があるなら月間100万円を超えられるもの」という審査基準を持っているのです。
「事業計画上、一人運営はあまり売り上がらない。でも複数名ならそこそこ売上がる。」
開業希望の美容師にとっては、こんな僅かな違いで融資額の増減が判断されることに、なかなか納得が行かないかもしれませんね。しかし、それが現実なのです。

このような理由から、一人美容室で開業を目指すなら、開業にかかる費用を低く抑えていかなければ、開業の実現自体が難しくなってしまうのです。

一人美容室に適した間取りと面積は、どのくらい?

では、予算に限りのある一人美容室の場合、どのくらいの店舗面積が適しているのでしょうか?
ここでは、「店舗面積(坪と㎡)から、セット椅子とシャンプー台が、はたして何台おけるか?」を確認していきましょう。
(注:店舗面積を表す単位として「坪」という表現が使われます。不動産屋でも、この「坪」単位で話をしてくることがよくあります。広さのイメージがつきづらいかもしれませんが、「1坪」=「3.3㎡」=「たたみ2畳分」を表します。)

<5坪(16.5㎡)>

カット椅子✕1席 

シャンプー台✕1台(注)

おそらく一人美容室を開業するにあたり最低の面積でしょう。
しかも、カット椅子からシャンプー台(注)に移動して行うようなスタイルではなく、カットしたらその場でシャンプーするようなタイプのシステムを検討する必要があります。
よくシェア美容室(個室貸し)のブースでこの程度のサイズで提供されていることもあります。ただ、シェア美容室のような業態の場合、洗濯場やバックヤードは共有スペースに用意されており、16.5㎡の範囲内には存在していません。
また、美容室として保健所に営業許可を得る際、作業面積が13㎡以上必要となるので、16.5㎡のうちのほとんどが作業場扱いにするとなると、非常に設計も難しくなるわけです。
(ちなみに、保健所の見解としてトイレやバックヤードは作業場として判断してくれず、最悪の場合営業許可が降りないこともあります)
したがって、こうした5坪程度の店舗にする場合、ウエイティングやレジカウンターを設置しないで済むような設計をすべきでしょう。特にウエイティング、トイレ、洗濯場、バックヤードの確保ができず、文字通り最低限の設計となることを理解しておかなければなりません。
前述したように、一人美容室では、特に店舗デザイン・内装にこだわるべきです。そのため、店舗の演出要素が極めて表現しづらくなる5坪の店舗は、一人美容室とはいえ、あまり現実的ではないと考えておいたほうが無難です。

<7坪(23.1㎡)〜10坪(33㎡)>

カット椅子✕2 

シャンプー台✕1台

実際の過去の実例データから考えて、どんなに小さくても7坪か8坪ぐらいが一般的な美容室のスタイルを作れる最小サイズと言ってもよいでしょう。
最低限のレジカウンター、ウエイティング(椅子程度)、トイレ、バックヤードを備えた上で、カット椅子2席とシャンプー台1台、をいれてギリギリなのが7〜8坪となります。ただ、昨今主流ともなりつつある、フルフラットシャンプーを導入するとなると、この広さでは難しくなるかもしれません。
カット✕2とフルフラットシャンプーを検討し、同時にややゆとりある空間に仕立てたいと思われるようなら、やはり店舗面積は、10坪は欲しいところです。

<11坪(36.3㎡)〜13坪(42.9㎡)>

カット椅子✕2〜3 

シャンプー台✕1〜2台

11坪以上の場合、それなりに面積に余裕が出始めるもので、設計上、上手に配置すれば、カット椅子2〜3席、シャンプーも1〜2台確保できる傾向が出てきます。ただし、一人美容室を貫く前提なのであれば、カットイス3席は必要ないことがほとんどです。
開業者は、とかく大は小を兼ねるとばかりに、やや大きめのサイズの物件でも、なんとかなるのでは?と楽観的に考えることがありますが、広めの物件を借りれば、家賃もやや高額、そしてそれに連動して店舗工事費(内装費)が高額になる要素に繋がります。
一人きりでの運営を前提とした物件選びの場合、「11坪以上の物件は、広すぎであり、物件の探し直しを考えた方がよい」と私は常々助言してきました。たった1坪の違いでも、工事費は数十万円、場合によっては100万円単位で高額になってしまう事例もあります。
前述したように、一人美容室では開業者自身の資金調達能力も低めな傾向にあります。ゆえに、とにかく慎重に判断する必要があるのです。なんとなく広めの物件を選んだことにより、予算の大幅なオーバー、あるいは、予算内でまかなえたとしても、非常にチープな内装になってしまった・・・
これでは、自身の魅力を発揮する極上の舞台セットを用意するという基準で考えると、なかなか実現が難しくなってしまいます。物件の選び方と予算のバランス追求は非常に重要だということを忘れずに進めましょう。


<注意>店舗面積と設置可能台数の関係については、あくまでも目安です。

物件の実際の区画や形は様々です。細長い長方形の区画もあれば、極めて正方形に近い区画もあります。中にはL型、台形型、三角形の区画もあります。実際の店舗設計では様々な要素が加わりますので、店舗面積だけで、実際の設置台数を判断することはできませんので、ご注意ください。

店舗の工事って、だいたいどれぐらい予算がかかるの?

一人美容室に適した間取りと面積は、どのくらいか確認できたところで、「実際のところ店舗を作り上げるのって、どれくらい費用がかかるのか?」が気になりますよね。
「店舗を作り上げる」には、沢山の要素が必要ですが、ここでは「店舗デザイン・内装」を行う「店舗工事費」に限って解説していきます。

開業者にとって、「店舗工事費の相場」というのは、非常に気になるところだと思いますが、ある意味、「7坪なら工事費はこれぐらいが相場である」とか、「10坪ならこれぐらいである」とか、こういった「相場」という感覚は非常に危険な考え方です。

まず、店舗工事の要素の中には大きく分けると「A.演出」「B.設備」2つの要素に分かれます。

A.演出

まず、「演出」に関してですが、多くの開業者が夢見る部分がこれにあたります。
(例)

  • 壁をレンガにして雰囲気を出す。
  • 南欧風の塗り壁にする。
  • 床はアンティークのフローリングで敷き詰める。
  • 間接照明とシャンデリアで演出する。

いかがですか、演出要素って、それはそれは、もうワクワクする部分ですよね。

B.設備

「設備」は、電気設備・給排水設備・ガス設備・空調設備があります。

また、こうしたインフラ以外にも、出店対象の物件の中には、シャッターを空けたら、入り口周りのアルミサッシュのウインドーや、壁、ドアも存在しないものもありますね。
そして、もともとトイレが存在していない物件もあるはずです。

こういった「設備+アルファ」の要素は、店舗営業する上での必須項目のため、足りていなければすべて自分の予算で用意する必要があり、開業者自身の勝手な判断で節約することができない要素となります。ですが、そこそこ高額なお金を払って、これらを用意したとしても、店舗の完成を見たところで、ワクワクする要素は皆無ですよね?エアコンとかが新しくても、ワクワクには繋がらないでしょ。

さて、この「設備」の要素。ここにいくらかかるのかは、実は、物件次第なのです。
例えば、諸設備全てと、入口まわり、トイレなどなど、すべてが存在しない物件を選んだとしたら、一体どうなると思いますか。
文字通り、これらすべてを開業者の予算で用意しなければなりません。これ全てを揃えたら、最悪の場合、簡単に200〜400万円に達してしまうこともあり得るのです。

よく開業者から「500〜600万円程度用意できれば、お店は出来るって聞いてるけど・・・」というお話を聞かされることがあります。
では、この「600万」を店舗工事の予算として確保していた場合で考えてみましょう。
もしも、選んだ物件のなかに「設備+アルファ部分」が、ナイナイ尽くしの物件だったとしたら、仮に店舗工事の予算として600万円確保していたとしても、この不足の部分すべてを用意するために400万円程度かかってしまうとしましょう。すると残りは200万円しか無くなってしまうのです。となると、「ワクワクする演出要素に200万しかかけられない…」ということになります。この場合、果たしてどれだけの演出ができるのでしょう?

一方、もしも、電気、ガス、給排水、空調などの全設備が足りており、しかも入り口のアルミサッシュやドア、トイレも、現存するものがそのまま使えたとしたら…
用意していた600万円の殆どが、レンガ、塗り壁、アンティーク床、照明などの体感を伴うワクワクする演出要素に使えるということなのです。

すなわち、「店舗工事費って、どれぐらいが相場なのか?」

答えは、「選んだ物件次第でお金のかかり方は様々である!」ということ。

厳密に言うと、「相場というものは無い」というのが正しい答えなのです。


<諸設備の工事費目安>

実際に店舗設計を長年経験してきた私でも、出店対象の物件をしっかりチェックせずには、いくらぐらい工事費がかかりそうかの予想はできません。
また、入居時の状態がどのような状況なのかによっても工事費のかかり方は変わります。
場合によっては、不要な造作物を開業者の費用負担で解体撤去しなければならないような物件もありますし、事情は物件次第であるということです。

とはいえ、設計経験に精通してきた人物であれば、ある程度の設備工事費の予測は可能です。
ここでは、条件を絞り込んだ上で、諸設備の工事費目安をご紹介します。あくまで、目安として考えてくださいね。

(条件)

  • 入り口周りのアルミサッシュとウインドウ、ドアがそのまま使える。
  • 店内は全造作が解体された状態(スケルトン)であると仮定
  • 電気容量十分あり、ガス設備あり、給排水設備万全、空調設備(建物側に付帯)

このような条件であれば、仮に10坪店舗でも、出費要素は、ほぼ内装の仕上(演出要素)だけで済むことになります。
あくまでも目安ですが、400〜500万円でも施工費がおさまる可能性もあります。
ただ、床が本物の木、壁には高級タイル、といった具合に開業社さんが高額なものをオーダーしていったとしたら、内装工事費は、グイグイ上がることになります。
ちなみに、上記の諸設備、入り口周り、トイレ、すべてが無い状態なら、同じ物件でも700〜800万円、状況によっては更に高額になってしまうこともありえます。

このように、工事費とは、借りた時の建物に付帯している状況によって大きく左右するものだということを覚えておいてください。

店舗工事業者の探し方・選び方によって、お店の仕上がりが大きく左右される!

さて、一人美容室の店舗デザイン・内装でこだわるためにも、次に知っておくべきことは、「店舗工事業者の探し方・選び方」
どういった店舗工事業者を選ぶかで、店舗の仕上がりは大きく左右されるものです。

店舗工事の依頼のしかたには、いくつかのパターンがあり大きく分けると3つあります。

  • ①店舗デザイン設計のみを請負う会社(設計事務所ともいう)
  • ②店舗設計及び施工を一括で請負う会社(設計施工業者ともいう)
  • ③施工・工事のみを請負う会社(施工業者、工事業者、内装業者、工務店ともいう)

各依頼パターンについて、メリット・デメリットを解説していきます。


①店舗のデザイン設計のみを専門で請負う会社

俗に店舗デザイン会社、店舗設計事務所といわれます。(以降、総称して設計会社とする)こうした会社に依頼することにより、おのずと「店舗デザイン設計」と「工事」は別発注となります。
すなわち、設計料・工事料を、それぞれ別々の会社に支払うことになります。
行程としては、先に店舗デザイン設計の作業、打合せをします。そして設計が完成した段階で、工事のみを請負う会社に見積もりを依頼します。

<メリット>

・クオリティーの高い空間演出を伴う店舗が作れます。

<デメリット>

・設計から工事までの時間をある程度確保する必要があります。


店舗設計及び施工を一括で請負う会社

設計と施工を一括で請負う内装会社であり、設計を担当する人物は、同じ会社の中から配属された担当者が設計業務を行う。同時に工事見積も作成される。

<メリット>

・1社のみに一括発注なので、対応窓口がわかりやすい。

・予算をあらかじめ提示し、その範囲内での設計を展開しやすくなる。

<デメリット>

・設計を担当する人物が外注の場合もあり、全体的に高額になることがある。(外注なのか、社内で完結しているかは、発注側である開業者からはわからない)

・設計担当者が、デザイン設計の専門ではないことがある。その場合、センスが伴わない設計になる可能性もあり。

 


③施工・工事のみを請負う会社

デザイナーや設計者を抱えず、工事のみの請負に徹した会社。俗にいう「工務店」もこれにあたります。
出店のための工事依頼など初めての経験の開業者は、よくわからないまま、こうした会社に依頼してしまいがちです。
実際には、店舗ではなく、住宅の工事をメインに請け負っているような会社もあり、単に、床材や壁材のクロス貼りが主業務であったり、一般的な内装材の工事を個別に請負うような会社だったりすることもあるので注意が必要です。
一般住宅のような演出性の低い店になってしまったとか、美容室で重要な電気容量や、水圧問題の解決策を工務店側は精通しておらず、結果、非常に不具合の多い店になってしまうという事例も少なくないので非常に注意すべきです。
こうした工事専門の会社は、設計〜見積〜工事という行程に沿った進め方に慣れておらず、常にぶっつけ本番的な工事の進め方をする会社も少なくありません。こうした工事業者自体を上から管理する人物が存在しないことが、多くのトラブルを招きやすくするのです。

<メリット>

・知り合いならば、頼むのは気楽かもしれません…

<デメリット>

・お店が出来上がってみるまで、きちんとした店舗工事ができる会社なのかわからない。

 

店舗デザイン設計と工事は別発注すべき!

「店舗工事業者の探し方・選び方」がわかったところで、私が最もおススメする店舗工事業者の依頼の仕方とその理由を解説します。


<店舗デザイン設計と工事会社の別発注をおススメする理由>

最もオススメするのは、「①店舗デザイン設計のみを請負う会社」へ依頼することです。
「店舗デザイン設計と工事会社は、別発注すべき!」ということです。

実は、世の中の大半は、店舗デザイン設計から施工(工事)までを一括ですべて請け負う会社(②の一括業者)が圧倒的に多いのです。
「設計と工事が別発注だと、費用がそれぞれにかかってしまうため開業予算が高額になってしまうのでは?」と考えてしまうかもしれません。しかし、これは間違えた認識です。
店舗デザイナーと工事会社は別発注、「考える人」と「作る人」は別に頼む方が絶対に良いのです。

まず、工事見積書といえば、ほとんどの人は表紙に記載された総合計金額しか見ていません。工事に詳しくない開業者が、その見積書の額面をみて、適正な材料代・作業代なのかの判断をすることはまず無理な話で、何が何だかよくわからないものですよね。
仮に、一括業者に依頼し、その会社の中から配属された店舗デザイナーが、どんなに優秀そうな人物だったとしても、その人物はやはり工事業者側の人なのです。
やがて提示される見積項目の中に、適正より多めに利益が上乗せされていたとしても、工事業者側に立つ店舗設計者は、それに対し厳選な査定をせずに、むしろ自社の利益追求に力を貸すものです。
設計と工事の一括業者に依頼した場合、真の適正価格より、ずっと多額のお金を支払うことになる危険性があるということです。
しかし、もしも店舗設計者が、工事業者とは別の発注により依頼されているのであれば、こうした見積書の内訳明細が本当に適正なものなのか?これをすべて開業者の代理人として厳しく見抜いてくれることが出来ます。

前述の一括業者、デメリットの部分で、<設計を担当する人物が外注の場合もあり、全体的に高額になることがある。>と記載しました。
これに関してですが、経験上、「設計と工事業者を分けて発注したほうが、結果的に大きな予算節約を実現できる可能性が高まる」と考えています。
確かに設計者にも支払いが必要であり、別で工事業者にも支払いが必要です。
しかし、設計者に工事業者を監視してもらうことによって、チェック機能が働き「不要な支出」「手抜き工事や事故」を防ぐことが可能になるのです。

◆主な設計士のチェック機能◆

・利益の取りすぎを見抜かせる。

(例えば、「壁面塗装の㎡作業単価が適正価格より高い。」「タイル1枚の値段が適正価格より高い。」など。一つ一つの上乗せ額が少なくとも、複数重なれば金額が膨らんでいきます。)

・いたずらに安すぎる単価の箇所をチェックする。

(工事金額を安くすることで、工事受注の可能性を高めている可能性もあり。不当に安い金額の場合、工事の強度不足や手抜き工事に繋がる。慎重に査定し、過不足なら、きちんと見直させる。)

設計者には、完全に開業者側に立ってもらい、開業者の代理人として動いてもらうのです。工事の専門知識が無ければ判断不能な要素を、設計者に開業者の代わりにチェックし判断してもらう。専門知識を元に工事業者側を厳しくチェックしてもらうのです。

このように、「設計」と「工事」の関係というのは、単純に設計と工事にそれぞれお金がかかり、高くなるという安易なものではありません。有能な設計者をさながら弁護士のような感覚で雇い、盤石な体制で工事を依頼することが、特に予算にシビアに進めなければならない一人美容室なら、なおさら重要な選択肢ではないかと思います。

【関連動画】「工事見積額の適正は開業者には見分けられない」


<本当に安い工事業者を探し出すためには「入札(競争見積)」が必要!>

そして、もう一つ、設計と工事を分けるメリットをご紹介します。それは「入札(競争見積)」です。
誰もが、多額な出費を伴う店舗工事ともなるわけですから、比較検討の要素として、複数の工事業者に「相見積を取ってみよう」と考えますよね。複数の工事会社に同時に工事見積をとる、これ、すなわち入札(競争見積)をいいます。文字通り、最も安い会社を選び出す方法で一般的には相見積といわれています。
しかし、多くの場合、複数の工事業者に見積もりを依頼してみたものの、集まった複数の見積書の表紙に書かれた合計金額だけを見て単純に比較したりしてしまいがちです。これは、まるで意味がありません。

実は、複数の一括業者を対象に、この入札を開催したとしても適正な競争は成立しないのです。

例えば、一括業者4社に工事見積もりを同時に依頼したとしても、まず、提出される見積書と共に4社それぞれのデザイン設計が一緒に提出されることでしょう。
これでは4社ともデザイン設計の内容がまるで異なるわけですからその見積内容は、4社とも異なる材料、異なる物量による積算結果ということになります。どう考えても、これでは、同一条件での競争が成立していませんよね。
本当に正確な競争を仕掛けて、入札するためには、たった一つの詳細なデザイン設計が事前に完成していなければ競争ができないのです。
正しい入札を行うためには、事前に店舗デザイン設計者を雇い、デザイン設計を完了しておく必要があります。詳細な図面作成が完了した後に、それを製作するための複数の工事業者に対して競争させるのです。

「同じ条件、同じ基準で競争した各業者から回収した各見積書を、設計者がチェックし、本当の意味で最も安い工事会社を選ぶ。」
これが工事見積を比較する唯一の正しい方法です。

これに関して、「学生時代の試験」に例えて解説します。誰もが学生時代に経験した試験を思い出して想像してみてください。4人生徒を呼び、それぞれに答案用紙を配り、同じ時間内で試験を受ける。結果、4人のそれぞれの点数が、80点、70点、60点、50点と差が出たとしましょう。しかしです・・・この4人の答案用紙が全員違うもので、国語、数学、理科、社会と別々の科目のテスト用紙だったとしましょう。これ、公平な競争じゃないですよね?最高得点80点の人が最も頭脳明晰?ではないでしょ。

とまぁ、店舗工事の入札も理屈はこれと一緒なんです。
事前に自分の代理人として雇った設計者と共に作り上げた答案用紙、すなわち詳細なデザイン設計を先に作成するのです。その詳細図面をもとに、複数の工事業者に競争で競い合ってもらうということです。
同条件、同基準での競争で回収した各見積書を、代理人の設計者がそれぞれ厳しく査定、チェック、そして本当に最も安い工事会社を選び出す。これが正しい入札というものです。

この「正しい入札(競争見積)」の仕組みを理解したうえで、一括業者に依頼した場合を再度考えてみましょう。

  • 一括業者に依頼するということは、設計施工で発注するということ。
  • 一括業者に属した設計者が設計し、一括業者で工事を行うことを依頼したということ。そのため、他の工事業者と競争する入札自体を行うことはあり得ない。
  • 一括業者への発注は、イコール工事の依頼なのですから、後で安い工事業者に乗り換える、ということはできないという事。

これ、是非ともしっかり理解しておきましょう。

【関連動画】「工事見積を比較する正しい方法」

【関連動画】「店舗デザイン設計者の本当の役割」


<店舗工事費は常に変動する>

店舗工事費に関しては、世の中の事情に応じて、単価が高騰したり、比較的安くなったりと、変動を伴うものであることも理解しておきたいところです。
近年の事例で言えば、数年前、関東地方の各地で豪雨による水害が多発した時期がありました。このとき一時的に各地で復旧の人員が足りなくなり深刻な職人不足という状況となったのです。ちょうどその時期に工事予定していた計画の場合、通常時より職人の手間代が倍額になったりしたこともあります。
店舗工事費というのは、材料費だけではなく、多くは各職人の人件費によって工事費を左右するものです。春までは、まずまずどこの業者に積算させても安い見積だったのに、夏になったら、どの業者もやたら高額見積になってしまった、ということもあるのです。
野菜の値段が高騰したり、急に安くなったり。最近よくありますよね?店舗工事費というのは、これとよく似ているところもあるのです。

「知り合いの業者なら安くやってくれるのでは?」と、考える開業者もいますが、ぜひともこの考え方にも疑問を持ってください。
「知り合いだから割引額で」とは言っても、前述してきたように、開業者自身では、見積額の適正額を判断することが出来ないわけですから、どの要素をどれだけ安くしてくれたのかは、知る由も無いわけです。
対象が野菜なのであれば、今の時期、誰もが高いか安いかを判断できるかもしれませんが、工事価格を判断できる専門知識を持っている方は数少ないでしょう。判断基準がわからなければ、ただ単に「もっと安くしてよ」という漠然とした交渉くらいしかできません。
もし、「割引しました!」といわれても「何がどのように割引された」か、判断できない。それで、本当に適切な工事が行われるのか、わからないですよね?

知り合いの会社、あるいは、某一括業者1社のみに絞り込んでの依頼をしてしまうと、工事費の適正額が一切比較検討できないまま進んでいくことになってしまいます。

適正額追求の意識をとことん貫くためにも、設計と工事の別発注と共に、複数業者に同条件、同時期での入札(競争見積)で公平に判断することが、なによりも賢い進め方であり、非常に効果的な方法なのです。

bh飯島由敬からのアドバイス<まとめ>

【一人美容室こそ、店舗デザインやおしゃれな内装にこだわるべき!でも、節約も必要!予算はどのくらい?開業事例から対策方法を解説!】いかがでしたか?

すべてbh飯島由敬が、携わった沢山の開業事例の経験から導き出した対策方法です。是非ご自身の開業計画に役立ててくださいね。


<今回ご紹介した内容のまとめ>

  1. 一人美容室の場合、開業者自身の魅力こそが最大のセールスポイントだからこそ、店舗デザインやおしゃれな内装にこだわるべき。
  2. 一人美容室だからこそ、融資可能額に限界があり、予算の節約が必要。
  3. 予算の節約のためにも、物件のサイズ・間取り・諸設備の有無を慎重に見定め、工事業者の探し方・選び方にこだわり、慎重に計画を進めましょう。
  4. おススメは「設計」と「工事業者」を分けること。入札(競争見積)を行うことで、適正価格で工事を行える可能性が高くなります。

<一人美容室を考えている方へ>

一人きりでの美容室運営では、従業員がいない分、心的ストレスも軽減され、自分のやりたいようにのびのびと経営していけることがメリットかもしれませんが、一人きりゆえに受け入れなければならないデメリットもあります。
一人きり運営を考えているならば、このメリットとデメリットを十分に理解した上で、ご自身の計画を今一度慎重に考えてみてください。

【関連動画】「一人きり運営のデメリット」

著者:

ヘアサロン開業アカデミー代表
美容室開業プロデューサー

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