「店舗工事業者の探し方・選び方」がわかったところで、私が最もおススメする店舗工事業者の依頼の仕方とその理由を解説します。
<店舗デザイン設計と工事会社の別発注をおススメする理由>
最もオススメするのは、「①店舗デザイン設計のみを請負う会社」へ依頼することです。
「店舗デザイン設計と工事会社は、別発注すべき!」ということです。
実は、世の中の大半は、店舗デザイン設計から施工(工事)までを一括ですべて請け負う会社(②の一括業者)が圧倒的に多いのです。
「設計と工事が別発注だと、費用がそれぞれにかかってしまうため開業予算が高額になってしまうのでは?」と考えてしまうかもしれません。しかし、これは間違えた認識です。
店舗デザイナーと工事会社は別発注、「考える人」と「作る人」は別に頼む方が絶対に良いのです。
まず、工事見積書といえば、ほとんどの人は表紙に記載された総合計金額しか見ていません。工事に詳しくない開業者が、その見積書の額面をみて、適正な材料代・作業代なのかの判断をすることはまず無理な話で、何が何だかよくわからないものですよね。
仮に、一括業者に依頼し、その会社の中から配属された店舗デザイナーが、どんなに優秀そうな人物だったとしても、その人物はやはり工事業者側の人なのです。
やがて提示される見積項目の中に、適正より多めに利益が上乗せされていたとしても、工事業者側に立つ店舗設計者は、それに対し厳選な査定をせずに、むしろ自社の利益追求に力を貸すものです。
設計と工事の一括業者に依頼した場合、真の適正価格より、ずっと多額のお金を支払うことになる危険性があるということです。
しかし、もしも店舗設計者が、工事業者とは別の発注により依頼されているのであれば、こうした見積書の内訳明細が本当に適正なものなのか?これをすべて開業者の代理人として厳しく見抜いてくれることが出来ます。
前述の一括業者、デメリットの部分で、<設計を担当する人物が外注の場合もあり、全体的に高額になることがある。>と記載しました。
これに関してですが、経験上、「設計と工事業者を分けて発注したほうが、結果的に大きな予算節約を実現できる可能性が高まる」と考えています。
確かに設計者にも支払いが必要であり、別で工事業者にも支払いが必要です。
しかし、設計者に工事業者を監視してもらうことによって、チェック機能が働き「不要な支出」「手抜き工事や事故」を防ぐことが可能になるのです。
◆主な設計士のチェック機能◆
・利益の取りすぎを見抜かせる。
(例えば、「壁面塗装の㎡作業単価が適正価格より高い。」「タイル1枚の値段が適正価格より高い。」など。一つ一つの上乗せ額が少なくとも、複数重なれば金額が膨らんでいきます。)
・いたずらに安すぎる単価の箇所をチェックする。
(工事金額を安くすることで、工事受注の可能性を高めている可能性もあり。不当に安い金額の場合、工事の強度不足や手抜き工事に繋がる。慎重に査定し、過不足なら、きちんと見直させる。)
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設計者には、完全に開業者側に立ってもらい、開業者の代理人として動いてもらうのです。工事の専門知識が無ければ判断不能な要素を、設計者に開業者の代わりにチェックし判断してもらう。専門知識を元に工事業者側を厳しくチェックしてもらうのです。
このように、「設計」と「工事」の関係というのは、単純に設計と工事にそれぞれお金がかかり、高くなるという安易なものではありません。有能な設計者をさながら弁護士のような感覚で雇い、盤石な体制で工事を依頼することが、特に予算にシビアに進めなければならない一人美容室なら、なおさら重要な選択肢ではないかと思います。
【関連動画】「工事見積額の適正は開業者には見分けられない」
<本当に安い工事業者を探し出すためには「入札(競争見積)」が必要!>
そして、もう一つ、設計と工事を分けるメリットをご紹介します。それは「入札(競争見積)」です。
誰もが、多額な出費を伴う店舗工事ともなるわけですから、比較検討の要素として、複数の工事業者に「相見積を取ってみよう」と考えますよね。複数の工事会社に同時に工事見積をとる、これ、すなわち入札(競争見積)をいいます。文字通り、最も安い会社を選び出す方法で一般的には相見積といわれています。
しかし、多くの場合、複数の工事業者に見積もりを依頼してみたものの、集まった複数の見積書の表紙に書かれた合計金額だけを見て単純に比較したりしてしまいがちです。これは、まるで意味がありません。
実は、複数の一括業者を対象に、この入札を開催したとしても適正な競争は成立しないのです。
例えば、一括業者4社に工事見積もりを同時に依頼したとしても、まず、提出される見積書と共に4社それぞれのデザイン設計が一緒に提出されることでしょう。
これでは4社ともデザイン設計の内容がまるで異なるわけですからその見積内容は、4社とも異なる材料、異なる物量による積算結果ということになります。どう考えても、これでは、同一条件での競争が成立していませんよね。
本当に正確な競争を仕掛けて、入札するためには、たった一つの詳細なデザイン設計が事前に完成していなければ競争ができないのです。
正しい入札を行うためには、事前に店舗デザイン設計者を雇い、デザイン設計を完了しておく必要があります。詳細な図面作成が完了した後に、それを製作するための複数の工事業者に対して競争させるのです。
「同じ条件、同じ基準で競争した各業者から回収した各見積書を、設計者がチェックし、本当の意味で最も安い工事会社を選ぶ。」
これが工事見積を比較する唯一の正しい方法です。
これに関して、「学生時代の試験」に例えて解説します。誰もが学生時代に経験した試験を思い出して想像してみてください。4人生徒を呼び、それぞれに答案用紙を配り、同じ時間内で試験を受ける。結果、4人のそれぞれの点数が、80点、70点、60点、50点と差が出たとしましょう。しかしです・・・この4人の答案用紙が全員違うもので、国語、数学、理科、社会と別々の科目のテスト用紙だったとしましょう。これ、公平な競争じゃないですよね?最高得点80点の人が最も頭脳明晰?ではないでしょ。
とまぁ、店舗工事の入札も理屈はこれと一緒なんです。
事前に自分の代理人として雇った設計者と共に作り上げた答案用紙、すなわち詳細なデザイン設計を先に作成するのです。その詳細図面をもとに、複数の工事業者に競争で競い合ってもらうということです。
同条件、同基準での競争で回収した各見積書を、代理人の設計者がそれぞれ厳しく査定、チェック、そして本当に最も安い工事会社を選び出す。これが正しい入札というものです。
この「正しい入札(競争見積)」の仕組みを理解したうえで、一括業者に依頼した場合を再度考えてみましょう。
- 一括業者に依頼するということは、設計施工で発注するということ。
- 一括業者に属した設計者が設計し、一括業者で工事を行うことを依頼したということ。そのため、他の工事業者と競争する入札自体を行うことはあり得ない。
- 一括業者への発注は、イコール工事の依頼なのですから、後で安い工事業者に乗り換える、ということはできないという事。
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これ、是非ともしっかり理解しておきましょう。
【関連動画】「工事見積を比較する正しい方法」
【関連動画】「店舗デザイン設計者の本当の役割」
<店舗工事費は常に変動する>
店舗工事費に関しては、世の中の事情に応じて、単価が高騰したり、比較的安くなったりと、変動を伴うものであることも理解しておきたいところです。
近年の事例で言えば、数年前、関東地方の各地で豪雨による水害が多発した時期がありました。このとき一時的に各地で復旧の人員が足りなくなり深刻な職人不足という状況となったのです。ちょうどその時期に工事予定していた計画の場合、通常時より職人の手間代が倍額になったりしたこともあります。
店舗工事費というのは、材料費だけではなく、多くは各職人の人件費によって工事費を左右するものです。春までは、まずまずどこの業者に積算させても安い見積だったのに、夏になったら、どの業者もやたら高額見積になってしまった、ということもあるのです。
野菜の値段が高騰したり、急に安くなったり。最近よくありますよね?店舗工事費というのは、これとよく似ているところもあるのです。
「知り合いの業者なら安くやってくれるのでは?」と、考える開業者もいますが、ぜひともこの考え方にも疑問を持ってください。
「知り合いだから割引額で」とは言っても、前述してきたように、開業者自身では、見積額の適正額を判断することが出来ないわけですから、どの要素をどれだけ安くしてくれたのかは、知る由も無いわけです。
対象が野菜なのであれば、今の時期、誰もが高いか安いかを判断できるかもしれませんが、工事価格を判断できる専門知識を持っている方は数少ないでしょう。判断基準がわからなければ、ただ単に「もっと安くしてよ」という漠然とした交渉くらいしかできません。
もし、「割引しました!」といわれても「何がどのように割引された」か、判断できない。それで、本当に適切な工事が行われるのか、わからないですよね?
知り合いの会社、あるいは、某一括業者1社のみに絞り込んでの依頼をしてしまうと、工事費の適正額が一切比較検討できないまま進んでいくことになってしまいます。
適正額追求の意識をとことん貫くためにも、設計と工事の別発注と共に、複数業者に同条件、同時期での入札(競争見積)で公平に判断することが、なによりも賢い進め方であり、非常に効果的な方法なのです。
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